未来終活
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映画に学ぶ終活

「こんな夜中にバナナかよ 愛しき実話」

「こんな夜中にバナナかよ  愛しき実話」
2018年日本 原作 渡辺一史 第35回大宅壮一ノンフィクション賞 第25回講談社ノンフィクション賞 受賞 監督 前田哲 主演 大泉洋 

あらすじ

鹿野靖明は子供時代に筋ジストロフィーを発症し、二十歳まで生きられないと言われながらも何度も危機を乗り越え奇跡的に34歳まで生き延びている。しかし動かせるのは首と手だけという介助なしでは生きられない状態にもかかわらず病院を飛び出し、ボランティアメンバーたちに助けられ自立生活を送っていた。そんな中、恋人の医大生を追って鹿野のボランティア現場に迷い込んだ美咲は、ボランティアたちをまるで顎で使うかのような尊大な鹿野の態度に驚き、夜中に突然「バナナが食べたい」というとんでもないわがままを言い出す鹿野に呆れ果てて「障がい者ってそんなに偉いんですか!?」と吐き捨てて現場を飛び出す。しかし鹿野の熱烈なラブコールと恋人の懇願で現場に戻った美咲は、鹿野の抱く夢を聞き、鹿野の語る未来を聞きながら自分に素直になることや夢を追うことの大切さに気がついていく。

感想

障がい者と介助者の人間として対等な関係がいかにして構築されるかというノーマライゼイションの思想を、障がい者自らが提案し実践したケースとして見るべきものがある。原作者で自らも現場で二年間ボランティアに加わった渡辺さんの言によると、鹿野さんとボランティアの現場では「できる」「できない」が逆転する場面が度々あったという。ボランティアが「支える人」であり、障がい者が「支えられる人」という固定概念はいつでも逆転しうる関係であることに渡辺さんは気がついた。鹿野さんもまた自己主張の強い、わがままな要求を繰り出してくるという大人しい聖人君子的な障がい者のイメージからは程遠い人物だったようで、その意味で大泉洋の起用は適役だ。シリアスな内容なのに全体がコミカルに仕上げられていて悲壮感がない。鹿野さんは結局43歳で逝ったがその生涯は身体的には不自由なのに、誰よりも奔放に精神的に自由に生きたという。その見事な生き方には健常者も障がい者もないと思った。