未来終活
ワクワクする後半生の設計図を描こう
映画に学ぶ終活

「疑いの中で」

2019年 チェコ 原題「KLEC(柵)」監督 ユーリ・ストラック 主演 ユリナ・ボルダワ

あらすじ


元教師の80歳のガリア婦人は夫と娘を亡くして久しく、茶飲み友達もなくて孤独な日常だった。唯一の張り合いだった教会の聖具係の仕事も親しかった神父の代わりに配属された若い神父によって解任され生きがいを失う。そんなとき突然親戚を名乗る若い男が現れる。共通の話題があることを喜び、家にまで招き入れて初めは楽しく親戚の噂話に興ずるものの、そのうち何かがおかしいことに気が付く。ガリア婦人の疑念に気付いた青年は懐かしい親戚から突如として押し込み強盗に変身するのだった。

感想


オレオレ詐欺は日本だけではないことを思う。年寄りを騙して何が楽しいかと思うが、洋の東西を問わず、孤独な高齢者の心の寂しさに付け込んだこの手の犯罪は後を絶たないのであろう。この映画で文字通りキーとなるのが建付けの悪い「鍵」。 皮肉にも泥棒除けにつけた頑丈なドアを内側から開ける鍵がガリア婦人によって外に投げられ、金品を奪って逃げようとした犯人を中に閉じ込めてしまう。ちなみに原題のKLECとは鍵ではなく、防犯対策として窓の外側に取り付けられた「柵」のことらしい。部屋を出られず困りきった犯人とガリア婦人の駆け引きの心理サスペンス劇であるが、圧巻なのは最後のシーン。一晩経ってもはや逃げられないと覚悟した青年がガリア婦人に詫び罪の赦しを請うて更生を誓ったのに、外から手繰り寄せた鍵を手に入れ、同時に演劇オーディション合格の知らせを受けて高揚した青年は、再び犯行の継続を決意する。この中では親戚と名乗っただけで見知らぬ青年を家に招き入れてしまう淋しい老女を描いているだけではない。悪質な押込み強盗をするまでに追い詰められた誰にも愛されない孤独な青年がいるのである。果たしてどちらの心の闇が深いのだろうか。