未来終活
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旅行記

エジプト紀行 六日目中編

王家の谷を後にしてハトシェプスト女王葬祭殿へ。

ハトシェプストは、トトメス一世の娘にしてトトメス二世の妻。夫の妾腹の子トトメス三世が幼いために、一時的に共同統治という形で王位についたものの次第に増長し、自らを男の王と同じように付け髭をつけて男として装い、第18王朝第五代のファラオとして振る舞ったという。治世は穏健で戦争を好まず平和外交によってエジプトを繁栄させた。

興味深いのは、旧約聖書「出エジプト記」でナイル川に流された赤子のモーセを拾って育てたのがハトシェプストではないかと言われていることだ。その伝説には大いなるロマンを感じる。彼女の誇ったその強大な権勢は、巨大な12本の自身のレリーフとなって体現している。

ここは1997年、イスラム原理主義過激派が、外国人観光客に対して行った無差別殺傷テロ事件で、日本人10名を含む63名が死亡、85名が負傷するという惨劇が起きたところ。しかし、晴天の下、地元の子供たちの遠足や多くの観光客が次々と訪れる場所では、そうした過去をすっかり忘れてしまう。

みんなキラキラした瞳で人懐こい笑顔で手を振ってくれるかわいい子供たちで、中には一緒に写真を撮りたいとスマホ片手に近寄って来る男の子たちに囲まれて、俄ハリウッドスターになった気分だ。

王家の谷を出た後、すぐ近くのメムノンの巨像を見に行く。
メムノンの巨像はナイル川西岸にある2体のアメンホテプ三世の像。元々はアメンホテプ三世の葬祭殿の入り口だったのだが、その後のファラオが自身の葬祭殿の石材調達のために破壊してしまったらしい。

メムノンという呼び名はギリシアの伝説、トロイア戦争に登場するエチオピア王メムノーンに由来する。高さ約18m。ちなみに現存の奈良の大仏は15m弱。

かつてこの巨像は夜中に泣くといわれた。おそらくは中に出来た空洞に風が入り込んで笛のように鳴り、まるで人が唸っているように聞こえたのだと思われるが、それを確かめに多くの人々が押し寄せて観光地化したのだと言う。中には紀元76年生まれの第14代ローマ皇帝のハドリアヌス帝とその妻のサビナがいて、夜明けに二回メムノンが泣く声を聞いたと証言しているのが面白い。今でいうところのオカルトブーム、あるいはパワースポットブームだろうか。昔も今も人の興味は似たようなものと可笑しい。