2006年 日本 原作 荻原浩「明日の記憶」第18回山本周五郎賞 監督 堤幸彦 主演 渡辺謙 第30回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞
あらすじ
広告代理店の辣腕営業マン佐伯雅行は仕事も家庭も順風満帆の日々だったが、ある日、自身で物忘れが激しくなる、めまいや幻覚が起こる、道がわからなくなる、などの不可解な身体の異変に気が付く。妻枝実子に促され、忙しい仕事の合間を縫って病院で検査を受けるが、医師から告げられた病名は「若年性アルツハイマー型認知症」という信じがたいものだった。それを知った雅行は錯乱し自暴自棄となるが、医師の説得により妻枝実子とともに病気と向かい合って生きていく覚悟を決めるのだった。
感想
渡辺謙がハリウッド映画の撮影中に偶然本屋で手にとった小説に惚れ込み、自ら原作者に映画化の許可を願い出てプロデュースしたとされる作品。初主演映画となったこの作品で渡辺謙は第30回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を獲得したほどの見事な熱演である。若年性アルツハイマーという病気の残酷さを余すところなく伝え、その中にいる主人公の苦悩や葛藤、それを支える妻の健気さと周囲の人々の様相を淡々と描写する。雅行を演じる渡辺謙と妻枝美子を演じる樋口可南子の夫婦の情愛に泣かされる。一番切なかったのは、雅行が自らの病気を明かして会社を早期退職する場面と、エンディングのワンシーン、のどかな田舎の施設に預けられた雅行がひとり部屋の中でぼんやりしている場面。人として最後まで自らの記憶を持ち尊厳を保って生きていくということが当たり前ではないのかという考えを覆らせる。老人性認知症とはまた異なる意味を提言する問題作である。