未来終活
ワクワクする後半生の設計図を描こう
映画に学ぶ終活

「午後の遺言状」

 1995年日本 日本アカデミー賞受賞作品 監督 新藤兼人 主演 杉村春子


あらすじ


夏の蓼科高原の別荘に森本蓉子が今年も避暑にやってきた。彼女を迎えるのは30年来別荘の管理をしている近隣の農婦豊子とその娘の朱美。庭師の六兵衛は去年2500万円の現金を残して首を吊って死んだという。遺されていたのは自分で作った棺桶と川原で拾ったらしいという棺桶を打つ丸い石。そこに蓉子の昔の仕事仲間が夫と共に訪ねてくる。かつて姉妹のように暮らした登美江は認知症になっていて蓉子のこともよくわからないらしい。彼らの滞在中に脱獄犯に押し入られるというハプニングがありその逮捕に協力して警察表彰を受けたあと、二人は故郷の新潟直江津に旅立ち、そして・・

感想


スクリーンに1995年という年代以上の時代の古さを感じたのは、新藤兼人監督が昭和の巨匠だからだろうか。彼の妻音羽信子さんの遺作でもある。杉村春子さんはそのままの大女優役を演じており、これはもはや演技ではなくスクリーンに映るのは彼女の存在そのものであった。中期以降の認知症である登美江が、蓉子のそらんじるチェーホフの舞台「かもめ」のセリフを聞いてたちまちそれに呼応する姿、毎朝夫に能の練習をつけるときの打って変わってかくしゃくとした様子は、認知症という病気の不思議な有り様をよく表わしている。豊子が、唐突に娘の朱美は実は蓉子の夫との間に生まれた不義の子であることを告白したシーンで見せる蓉子の狼狽振りが真に迫る。そしてその後の許しと和解へと進む二人の心理描写がうまい。脱獄犯の侵入シーンにはユーモアを滲ませて笑いを誘う。若き日の松重豊が朱美の夫役で出ているのを発見。テーマは誰にでも訪れる老いと死。どう老いるか、どう死ぬか?棺桶を打つ石をモチーフとして永遠のテーマ、生老病死に迫る。